ただ大笑いなんてしない。軽く吹き出す程度に何とか留めた。

 

 

｢気付けばあんたは屯所に居たからな。そうか副長に捕まったか。｣ https://ventsmagazine.com/2023/12/13/understanding-adenomyosis-symptoms-causes-and-treatment-options

 

 

言葉に出せば余計に笑いが込み上げて来る。

それを手の甲を口元に当てて隠した。

 

 

『帰って来たら屯所に居て，おまけに副長の小姓だと言うから驚いた。意外と謎が多い女だ。』

 

 

笑いを堪えて冷静に三津を観察した。

未だかつて女中が幹部の小姓を勤めた事なんてない。

 

 

余程凄い女なのかと思い，土方にどこの誰だと尋ねても“甘味屋の三津”しか言わなかった。

 

 

それ以上何も聞くなと目が言ってた。

きっと他の事情もあると察知した。

 

 

甘味とは無縁と思われる土方が何故そんな所で三津を捕まえたのか。

謎が謎を呼ぶ。町の賑わいの中に入ると三津の目が一層輝く。

 

 

｢久しぶりや！いつもあっちのお寺で遊んで，この道真っすぐ行ったら居候してた甘味屋です！｣

 

 

大きな身振り手振りがその興奮を表す。

 

 

｢通りの名が分からんのは山奥から出て来たからか？｣

 

 

その質問に三津は誤魔化しの笑みを浮かべる。

 

 

｢まぁ…そう言う事にしときましょう。久々やから甘味屋行きたいです。｣

 

 

三津は斎藤の袂を引っ張って駄々をこねた。

土方には絶対出来ない。

 

 

三津を知るには丁度いい。斎藤はこくりと頷いて快諾した。

 

 

突然訪れたらトキと功助はどんな顔をするだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

｢おばちゃん遊びに来たで！｣

 

 

三津は胸を踊らせながら暖簾をくぐった。

 

 

｢三津！まさか追い出されたんちゃうやろね？｣

 

 

三津はトキに両肩を掴まれ前後に激しく揺らされた。

喜んでもらえると思ったのに疑われた。

 

 

｢失礼やな！斎藤さんと散歩してるだけやもん！｣

 

 

ね？ね？と斜め後ろで自分を見ている斎藤に同意を求めた。

 

 

｢斎藤と申します。娘さんは立派に勤めておりますのでご心配には及びません。｣

 

 

深々と頭を下げたのを見て，三津はほら見ろと胸を張って得意気な笑みを浮かべる。

 

 

｢言っとくけど道が分からんから連れて来てもらったんちゃうからね！｣

 

 

勘違いしないでと念を押すと，トキは“はいはい”と冷たくあしらい斎藤を丁重にもてなした。

斎藤はまた礼儀正しいお辞儀をして椅子に腰をかけた。

 

 

｢久しぶりに会ったんやからもっと喜んでよ。

おばちゃん冷たいー…。｣

 

 

三津の甘えん坊が顔を出す。

トキの腕に絡みつき構ってくれと駄々っ子になる。

 

 

三津が来たのを素直に喜ぶのは照れくさいから，トキはあえて素っ気なくしてしまう。

 

 

｢仕事の邪魔せんとって。

斎藤さんほったらかしなや。｣

 

 

｢いえ，お構いなく。｣

 

 

斎藤は三津の行動さえ観察出来れば問題ない。

 

 

｢ここまで来るの苦労したでしょう？この子道分かってへんから。｣

 

 

トキは纏わりつく三津の頭を押さえつけて斎藤の正面に座らせた。

 

 

特に困った訳でも苦労した訳でもないが斎藤は大きく頷いた。

道を分かってないのは間違ってないから。

 

 

｢そうでしょ？土方さんも連れて帰って来るの苦労しはったんですもん。｣

 

 

｢副長が……ですか？｣

 

 

この話は物凄く興味がある。トキの口から語られる三津と土方の関係。

斎藤は静かにそれが語られるのを待つ。

 

 

顔には出さないが早く聞きたくて仕方ない。

どんな内容なのか実はワクワクしている。

 

 

『あの副長の話だ。聞いて損はない。』

 

 

斎藤にとって情報収集も仕事のうち。

決して楽しんでるんじゃない。あくまでも仕事の一環だとすまし顔。

 

 

｢この子が暑気あたりでぐったりしてるのを土方さんが背中におぶって連れて来てくれたんです。

初めて会った見ず知らずの相手やったのに親切なお方ですわ。｣

 

 

『あの副長がこいつを…。』

 

 

それはかなり貴重な情報だ。

土方のそんな姿を見れる事はまずない。

どんな由縁でそうなったのか。

さらに興味を抱き三津を見た。

 

 

三津は少しむくれて机に頬杖をついた。

確かにあの時は親切だった。

口は悪かったけどその裏に優しさを感じた。