「時に、モルフィネス。ナーザレフの教団について、その後何か分かったか?」迫り来る太子軍への対策を他所にハンベエは別の話を始めた。「ああ、それか。今はそれどころじゃないが・・・・・・。教団の本部はボルマンスクにある。信者は三万人ほどだ。online trading platform ゲッソリナにも教団の僧侶が何人か居て、布教中だ。」「布教中だと。其奴らも人売りの連中と連んでるのか。」「いや、調べた所では、ナーザレフの教団も全部が全部、ナーザレフの狂信者と言うわけでも無いらしい。人数が増える内に分派と言うか考えを異にする者も出て来て、子供を売買するのには反対の者も居るようだ。」「ほう。」今度はハンベエが少し明るい顔色になった。「何だよ、ハンベエ。あの連中は退治するだろお。」ハンベエの反応にロキが鼻白んだ。「勿論、退治するさ。ただ、退治の仕方が難しいのさ。」とハンベエは苦笑いだ。「その僧侶共、居場所は分かるか?」ハンベエは更にモルフィネスに尋ねた。「把握しているが、どうするつもりだ。」「ちょっと会って見ようかと。」「ハンベエ、貴公? まさかと思うが、いきなり斬りはすまいな。」モルフィネスは不安げにハンベエを見詰める。「さあ、どうかな。」 ハンベエは悪漢めいた含み笑いを浮かべていた。ハンベエが小さく笑って言った。「その話なら、私も知っている。悪くないかも知れない。水にせよ、火にせよ、使えるものは使わなくてはな。・・・・・・そうか、ドルドル鉱山の労務者に兵士の仕事ばかりさせようと焦っていたが、土木作業ならむしろ彼等はお手の物・・・・・・。」 モルフィネスは急に明るい顔付きになった。「取り敢えず、速やかに手配しよう。明日、『御前会議』を開き、ベッツギ川への布陣を決定しよう。」 モルフィネスから聞き出したナーザレフ教団僧侶の下へハンベエはぶらりという風情で王宮から出掛けた。それならオイラも付いて行と、ロキが同行した。ゲッソリナにはヨン・ピエトル寺院というゴロデリア王国の守護神とされる太陽『ラー』を祀った大寺院が有り、ボルマンスクでは猖獗を極めているナーザレフの教団もまだ勢力を持っていない。ハンベエとロキが訪れたのは、ゲッソリナの東の外れにある小さな集会所である。ステルポイジャン軍潰滅後の混乱時に空き屋になっていた物にナーザレフ教団の僧侶が住み着き、布教を始めたばかりのところらしかった。そこに居る教団一派の中で、一番の尊敬を受けているらしい僧侶がスラープチンという男であった。ハンベエが面会を求めると、意外な事にスラープチンはあっさりと応じた。 集会所の奥から出て来たスラープチンを見たハンベエとロキは少しばかり驚かされた。僧侶だと云うから、てっきり栄養不良の蒼白いやせっぽちを想像していたのに、「私がスラープチンです。」と名乗った男は、あの巨漢ドルバスとどっこいどっこいの極めて体格に恵まれた大男であった。僧侶を称している故にか、身には寸鉄も帯びていないが、見るからに腕っぷしも強そうである。「近頃、世に時めいている王女軍の総司令官がこんな貧乏僧侶に何用ですかな?」スラープチンはハンベエの名を聞くと恭しく一礼して挨拶した。「別に時めいてはいないが、聞きたい事が有って来た。」「何をお尋ねに。「神についてだ。」「神について・・・・・・分かりました。お答えしましょう。」 『神について』と切り出したハンベエは、油断なくスラープチンを窺いながら、「お前さん方の神は何でも唯一にして絶対だそうだが、それだと他の者の信じている神はどうなる?」 と尋ねた。「この世に神はお一方しかいないのですから、他の神は偽物或いは紛い物となります。人は正しい神を信じなくてはなりません。」スラープチンは重々しげに言った。「偽物や紛い物の神がいるのか。」