「訓練もさる事じゃが、装備も全然無いんぞ。銘々が持っている剣くらいか? 短剣くらいしか持ってない奴も多いし、武器自体触った事の無い奴もおる。長槍、鎖帷子くらいは用意してやらんと話にならん。脫髮基因 うーん、最低長槍は装備させないと使い物にならんぞ。・・・・・・やっぱり槍じゃな。今できる事は槍の調達ぞい。「うむ、最優先事項として長槍を調達しているところだ。」「大量の武器調達か、敵方にこっちの本当の人数が漏れるのはもう時間の問題だな。」モルフィネス、ドルバスのやり取りにハンベエがちょこっと口を挟む。「ドルドル鉱山が我等に加担した事が漏れると?」「向こうにはサイレント・キッチンが居るんだぜ。大量の武器を調達したら、気付くだろう。モルフィネスらしくもない。「しかし、調達しないわけには行かないぞ。「勿論そうだ。それに間違いは無い。」「ではどうすれば・・・・・・。」「ドルドル鉱山の加担を隠しておいて、突然の不意打ちを喰らわせるという甘い見通しは戦略から外しておいた方がいいだろう。」ハンベエはやる気の無い口調でモルフィネスに言った。「むうう・・・・・・。」モルフィネスは珍しく表情を崩し、苦虫を噛み潰した。ドルドル鉱山の一団を使っての奇襲という策謀も描いていたらしい。「敵は既に出撃準備を始めた。十七万の大軍だから編成も含めて一カ月近く要するだろうが、ドルドル鉱山の皆を鍛えるにはまるで時間が足りない。十万人の軍勢と言っても軍事教練を施さなければただの烏合の衆。実戦に出せない。」兵員確保の秘策としてドルドル鉱山抱き込みを実現させたモルフィネスもそこまで思案は及んでいなかったらしい。モルフィネスの同情すべき点は、当初タゴロロームで構想を練っていた時とは、時間的余裕が全く違った状況になった事であろう。「ハンベエ、オイラ、ザック達の様子見に行くよお。今日も『キチン亭』で晩御飯食べるよねえ。」打ち合わせは到底簡単に済むようなものではないらしいと悟ったロキはそそくさと出て行こうとした。待て、ロキ。お前も話に入って力を貸してくれ。」モルフィネスが袖を掴む勢いで引き留めようとした。「うん、王女様の為だから力は貸すよ、モルフィネス。でも今日は無理だよお。」ロキはそう言うと出て行ってしまった。「アタシもちょっと風に当たりに行くよ。」ロキの退出に続いて、イザベラも出口に向かう。「イザベラ、晩飯の予定有るか。今日も又『キチン亭』で三人で飯食おうぜ。」今度はハンベエが呼び止めた。「又アタシをこき使うつもりかい。」「あははは。」「まあ、良いよ。後でね。」イザベラはそれほど機嫌悪くもない感じで言って出て行った 氷の鉄仮面モルフィネスは務めて無表情ながら、無言で何処か一点を見詰めていた。 その様子を透かし見るようにしてハンベエが、「モルフィネス、ひょっとしてお前・・・・・・煮詰まってる?」と尋ねた。・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・そうだな。」重苦しい声でモルフィネスが答えた。「ふう、休憩しよう。」ハンベエが椅子に背を持たれさせて言った。薄い笑みを浮かべていた。予断を許さないどころか、あまり勝ち目のない戦が始まろうとしているのに焦る様子が無いのは総司令官としての演技なのか。それとも、今まで見てきたこの若者の恐怖心の薄い性分がそうさせるのか。その後も三人の鳩首談合は続いたが、夕刻となってハンベエがキチン亭に戻る事になった。ドルバスとモルフィネスは、王宮に滞在だ。尚も二人で話し込む勢いであったが、ハンベエが今日はもう止せと忠告した。とにかく、一旦休もう。明日攻め込んでくるわけでもないから、せめて今夜一晩だけでも何もかも忘れて眠れ、