アカガネヨロイのドブスキーの首が届いたので、取り敢えず市中何ヶ所かに立て札を立て、告知する事となった。曰く。『近頃、押し込み強盗を専らにし、民へ迷惑を掛ける事一方ならぬ凶賊アカガネヨロイのドブスキー以下五千有余名を処断したので、ここに報告する。 首領ドブスキーの首は王宮前にしばし曝すものとする。市民においては特段見たき物に創科あらざるものと承知すれども、凶賊処断の証也。今後もかかる徒輩は容赦無く処断するつもりであるから、諸人においては安心して生業に励まれたし。王女エレナ殿下配下タゴロローム軍兵士一同。』些かふざけた調子の部分が有るのは、布告文にハンベエとロキがちょっかいを出した為である。この後、ドルバスの率いて来た兵士一千人も含めて、ゲッソリナ市中の見回りを強化した。モルフィネスはバスバス平原に駐屯地を作り、軍団を滞在させる事にしたようだ。ハンベエの下には使者のみがやって来て本人は顔を出さない。使者の口上では、モルフィネスはドルドル山の鉱山労働者との交渉に入ったと言う。前にも述べたが、ドルドル鉱山には何万人もの鉱山労働者がおり、一大勢力を成していた。今回明らかになった所では何と九万人強もの労働者がいた。元々はモルフィネスの父である近衛師団長ルノーが近衛兵団一万人を以って監視の任に当たっていたのだが、内乱に際しステルポイジャンと敵対して滅ぼされた事は既に述べたとおりである。 その後、ステルポイジャンもドルドル鉱山労働者達を兵を置いて監視していたが、ハンベエとの戦いに全ての兵士を投入した為、監視する者が居なくなってしまっていた。九万人の労働者である。これが暴徒と化していた日には、ゲッソリナに目も当てられない程の被害が出たであろうが、彼等は中立を保ち、ステルポイジャンに与する事も暴徒となる事も無かったのは幸いであった。が、モルフィネスが交渉に入って、彼等の所持する食糧が底を尽きはじめている事が判明した。直ぐに手持ちの食糧を供与したが、とても足りるものではない。九万人の労働者が飢えに迫られたら、何が起こるか。モルフィネスにとって食糧調達が喫緊の課題となってしまった。使者はモルフィネスからモルフィネスの陣営へロキを招く事も命ぜられていた。食糧調達を手伝いに来いというわけである。ロキ、十二歳。『王国金庫強制査察』の一件以来、参謀モルフィネスからも一目置かれ、頼みにされているようである。ドルバスから得た情報では、今王女エレナの脇を固めている人間は侍女頭のソルティア、絵師パーレル、そして旧第五連隊いやハンベエが最初にいた第五班出身のボルミスという布陣になっていた。「何か不安になるような顔ぶれだな。パーレルは悪い奴じゃないが押しが弱いし。ボルミスは女癖がなあ。この顔ぶれで誰が軍の指揮を取ってるんだい?」 ドルバスの話にハンベエが少し呆れ気味に言った。と言って、さして慌てた風も無い。「エレナ王女様が直接陣頭に立たれ、それをセイリュウが補佐している。」「負け組のセイリュウが? 大丈夫か。」「王女様には威が有る。生まれ持たれたものだな。兵士達は皆懐き従っているぞ。それに、モルフィネスが降伏した軍の編成を徹底した。仮にセイリュウが謀叛を企てたとしても奴に従うのは元々連隊長として指揮していた連中のみ。