「犬死に?嫌な言葉だ。犬が怒ろうってもんだ。まあ、無駄死にかどうかと言われれば、無駄とも思わん。王女の綺麗な心の証しになるだろう。だが、王女の心が綺麗なのは、ロキもイザベラもそして俺も、その他の連中も良く知ってる事だしな。あんまり値打ちは無いな。」まるで何かの解説のような、特に感情を込めない口調周大福教育集團 學校服務でハンベエは言った。エレナは再び顔を伏せた。「分からない。・・・私には・・・ハンベエさんが解らない。」顔を伏せたまま、エレナが苦しそうに言った。その時である。執務室の扉が遠慮がちに叩かれ、兵士が顔を出した。「お取り込み中のようですが、モルフィネス元参謀が軍司令官に会いたいと陣地前に来ているとの報せが入りましたが。」イシキンであった。イシキンはロキの助手として、タゴゴロームの会計担当者から話を聞いて回る役目を行っていたが、ロキがそれらの人間と打ち解け又王国金庫との交渉が暗礁に乗り上げている事も有り、助手の役を離れ、ハンベエ直属の伝令の役に就いていた。「モルフィネスが・・・俺に会いたいと?・・・イシキン、すまんがそこらの兵士に命じて、ドルバスにロキ、それからパーレルを此処に呼んで来てくれ。」ハンベエは小首を捻った後、イシキンに命じた。エレナ達が『星と共に過ごす街』でモルフィネスに出会った一件は聞いていたが、何の為に会いに来たのか見当も付かない。イシキンは一礼すると直ぐに命令の遂行に移った。その後、イザベラは俯いているエレナの肩を叩き、別室へ誘って行った。「ハンベエさん、やはり私にはあなたが、闘う事しか知らない鬼にしか思えません。」去り際に、エレナが悲しそうに言った。「ヒョウホウ者だからな。」ハンベエは無愛想に呟く。二人が去った後、ハンベエは不機嫌な表情になっていた。エレナの言葉に怒ったのではない。いつの間にか、イザベラがエレナの忠実な侍女のようにずっと付き添っている状況が歯痒く感じられるのである。勿論、エレナを案ずるイザベラの心は良く知っているし、その事自体を不機嫌に思うハンベエでもない。だが、事態は切迫している。ステルポイジャン達がいつ行動を起こすか分からないのだ。この状況で、イザベラのようなスーパーエージェントとも云える凄腕には頼みたい仕事が有ったし、相談したい事も山ほど有ったのだ。それが王女エレナのお守りに掛かりっ切りなのは、どうにもこうにも勿体ない、資源の無駄遣いに思えて足擦る思いなのであった。ハンベエの前を辞したエレナが別室で、「何で、ハンベエさんにあんな酷い事を言ってしまったのか。ああ、私は本当に嫌な女だわ。」と泣いていようなどとはハンベエの全く知らぬ事であった。尤も、知ったところで今のハンベエ、心にも留めないであろう。それどころじゃ無かった。待つ程も無く、呼び出しを掛けた面々がやって来た。議題は、モルフィネスとの面会の件であった。ハンベエが特に気を使ったのはモルフィネスと因縁の有るパーレルであった。勿論、第5連隊を地獄に堕とす作戦を立てた人物なので、元第5連隊兵士でモルフィネスを良く思っている人間は一人もいない。しかし、バンケルクを滅ぼしてその件については一区切り着いた形にはなっていた。因縁のあるパーレルに気を使ったのはハンベエの性格の一端であった。取り敢えず、皆でモルフィネスに面会して真意を問い糾す事になったが、パーレルは同席したくないと言うので、ハンベエが執務室の隠し部屋で話を聞くように言った。パーレルはそれも嫌だと言ったが、ハンベエが強要した。ハンベエには珍しい事である。うして、イシキンにモルフィネスを案内するように命じた。陣地前ではモルフィネスが待ち兼ねていた。ハンベエと云う男にしては随分待たせるものだとモルフィネスは思ったのだ。モルフィネスの頭に浮かぶハンベエは、殺すにしろ、話を聞くにしろ、即断即決、グズグズしない男である。