モルフィネスと聞き、その兵士は腰の刀に手を掛けたが、「ハンベエに聞いてからにした方がいいと思うぞ。私を慌てて殺して、後でハンベエに叱られても知らんぞ。私なら、殺すにしろどうにしろ、先ず伺いを立てるがなあ。」と相手が落ち着き払って穏やかに言うものだから、思い直してハンベエに伝えに走った。ハンベエは執務室にいた。エレナやイザベラと話をしていたのである。エレナ到着からハンベエの取った行動は、先ずボーンから得た国王バブル六世の死の真相を兵士達に浸透させる事であった。浸透させると言っても、立て札を立てて告示するようなあからさまな方法は取らなかった。腹心の部下を通じて口コミで順々に広がるように仕向けたのである。 エレナはパーレルが肖像を描くのを許したが、やはりタゴロローム守備軍の旗印に担ぎ挙げられ、ハンベエに利用されるのには抵抗が有るようで、一旦はハンベエの拝み倒しに押し切られたが、煮え切らない様子で他の道をハンベエに求め続けていた。「一体、ハンベエさんは何bespoke packaging suppliersがしたいんですか?私を口実に戦がしたいだけなのではないですか?」「確かに俺には、ステルポイジャン側にいるガストランタと戦う理由が有る。その俺にとっては王女とフィルハンドラが争うのは願ったり叶ったりの成り行きさ。」ハンベエはエレナの言葉を否定しない。既にエレナに対してはフデンとガストランタの関係、ハンベエがガストランタを敵とする事情を包み隠さず話していた。「戦えば多くの人が死にますわ。」「しかし、戦わなければ王女の命も無くなるぞ。逃げても、あの王妃の感じでは草の根分けても追っ手を掛けて来るのはまず間違いの無いところだ。」「私一人の命で済むなら私は厭いません。」「あーもー、そうやって直ぐ死にたがるのはエレナの悪いところだよ。」横合いからイザベラが溜め息を吐いた。「でも、それで多くの人の命が救われるのなら。」「王女は死ぬと言うが、死なねばならないような覚えが有るのか?」ハンベエは逆にエレナに突っ込んだ。何故か一瞬、エレナは大きく目を見開き、言いようの無い悲しげな瞳をハンベエに向けた。しかし、直ぐに心外な、と言わんばかりの顔をして言った。「そんなものは有りませんわ。でも、私が静かに死ねば、多くの人が死なずに済むのですよ。どうして解ってくれないのですか。」「王女の命は王女のものだから、俺から死ぬなの何なの言えやしないな。だが、俺は戦いを止めないぜ。恐らく、俺に付いて来るであろう人間も鉾を納めないだろう。」「何故?」「理不尽だからさ。王女が王位に野心が無い事は王女の事を知る者は皆知っている。殺される理由が無い。それを奴等は濡れ衣を着せて抹殺しようとした。血の流れるのを嫌って死ぬのは王女の自由だが、死んだ後どんな悪名を着せられるか分かったもんじゃないぜ。何せ、死人に口無しだからな。」「随分私に味方してくれるのですね。私の大事な人を殺しておいて。それとも、私の味方をするのは、その罪滅ぼしですか。」発作のように、エレナは突然刺々しい口調で言った。だが、言ってしまってから、自分の言葉を恥じたように俯いた。困った顔でハンベエはイザベラを見遣った。視線を向けられたイザベラは『どうしようもないさ。』という風に顔をユラユラと振った。「悪いが、バンケルクの件については俺は少しも悪いとは思っていない。同情や罪滅ぼしと思っているなら、とんだお笑い草だ。それに別に王女に味方をしているつもりも無い。ただの成り行きだと思ってくれ。世が乱れ、人の争う所には、色んな奴が現れる。ただそれだけの事だ。」ハンベエの言葉に、エレナは顔を上げ、虚ろな目でハンベエを見た。「一つ言って置きたいのは、今王女が死んでも争いは収まらないし、人の死ぬのも止められないという事だ。ステルポイジャンとラシャレーの争いは止まらないだろうし、こっちで王女が自殺したりしたら、喜ぶのはステルポイジャンの一派だけ、ゴルゾーラ達に向けて大喜びで攻めて行くだろうぜ。」人ごとのようにハンベエは言ってのける。「つまり、今私が死んでもそれは犬死にだと?」