「でも、わざわざ私に報告しなくていいのに」「七瀬さんのことを、誰より大切に想っている君には言っておきたかったんだよ。何も言わずに行動に移すのは、抜けがけみたいで嫌だろ?」「抜けがけだなんて、思わないって」私は笑いながらその発言を受け流したけれど、心の中では、報告してくれて良かったと思っていた。bespoke packaging suppliersで依織と会う予定なの?」「いや、まだ詳しいことは決めてないんだ。彼女の空いてる日に合わせたいと思ってるから」「……頑張ってね」多分フラれると思うなんて、言わない。そんなこと、きっと久我さんが一番覚悟しているはずだから。それでも、電話やラインではなく、ちゃんと会って気持ちを正面から伝えることに意味があるのだろう。「君は、いいの?」「え?」「このまま、彼女に気持ちを伝えなくてもいいのか?」「……」今まで、何度も何度も自問自答してきた。
このまま、親友として傍にいるだけでいいのだろうか。自分の気持ちを押し殺しながら、いつまで依織の隣で笑っていられるだろうか。いっそのこと、当たって砕けてしまえばいい。そう思ったこともある。けれど、やっぱりどう考えても、私が望むことは最初から決まっているのだ。「私は、依織が幸せになるなら、それでいい」依織に恋をしたことで、散々苦しい思いをしてきた。それは、これからも続くかもしれない。それでも、依織が幸せそうに笑っていてくれるなら、私はきっとこの苦しみに耐えられる。今は、素直にそう思えるんだ。「彼女が幸せならそれでいい、か。……七瀬さんは、君に出会えた時点で既に幸せだろうな」「え……」「君のような良い女は、なかなかいないと思うよ」「な……何よ、急に褒めないでくれる?」そんな直球で褒められることがないため、私は照れ隠しでコーヒーを一気に飲み干した。そんな私を見て、久我さんは目を細めながら綺麗な所作で優雅にコーヒーを飲んだ。「ここのコーヒー、苦味が強くて僕は好きだな。雰囲気も、静かで落ち着くね」「ここ、ナポリタンも美味しいのよ。職場が近いから、たまに来るの。でもまさか、久我さんとこうしてコーヒーを飲むことになるとは思わなかったけど」「ハハッ、確かに。でも、たまにはいつもと違う所で会うのも悪くないだろ?」「……まぁ、そうね」結局その後久我さんとは、コーヒーを追加注文し二時間も話し込んでしまった。そして彼は、この二日後に行動を起こしたのだ。日曜日。この日は快晴で絶好のお出かけ日和だった。ちょうど仕事も休みだし、どこかに出掛けないと勿体ない。私は起床してすぐに依織に電話を掛けた。靴を新調したかったため、買い物に付き合ってもらおうと思ったのだ。けれど、依織には断られてしまった。どうやらこれから、久我さんと会うらしい。依織も、今日は自分の気持ちを久我さんに伝えるつもりだ。私は、頑張ってとだけ伝えて電話を切った。「……仕方ない、一人で出掛けるか」他の友人を誘うつもりは最初からなく、今日は一人の時間を思いきり楽しもうと決めた。シャワーに入り、化粧を終え出掛ける支度が整うまでおよそ一時間。地下鉄で大通駅まで向かい、新しいパンプスを探すために歩き出した。けれどその途中、ずっと気になって仕方なかった。今、依織と久我さんがどこにいるのか。二人でどんな話をして、どんな笑顔を見せ合っているのか。買い物に集中出来なくなるのは嫌だ。
私は依織に、どこにいるのかラインした。すると数分後に返事がきた。「は?積丹?」久我さんのことだから、ウニが好きな依織を喜ばせようと連れて行ったのだろう。私が困惑している間に、次は久我さんからラインが届いた。『今、七瀬さんと積丹に来てる』「……本当、何なのよ」私はそのラインに返事はせず、すぐに甲斐に電話を掛けた。