久我さんおすすめの絶品ウニ丼を食べた後、彼はまた車を走らせた。ウニ丼の次は、海が見えるカフェでお茶をした。青い海が見えるカフェではテラス席に通され、久我さんが注文してくれたふわふわのパンケーキを堪能した。こんなことをしている場合じゃないのに……ceg smart contract ながらも、完全に彼にペースを狂わされていた。その後もいくつかの観光スポットを巡り、彼が最後に車を走らせた場所は、積丹にある神威岬だった。時刻は既に夕方を迎え、晴れ渡っていた青空も、夕焼け空へと移り変わっていく。「車から降りましょうか」「……はい」周囲には絶景を見に来たカップルが数組いるけれど、会話が聞こえるような距離には誰もいない。久我さんは背筋を伸ばし、ただ真っ直ぐ夕焼け空を眺めていた。「もう少し時間が経てば、この夕日がピンク色に変わるんですよ。いい景色なんで、見て行きましょう」いつ、どのタイミングで話を切り出すべきなのか今日一日ずっと迷っていた。話すなら、もう今しかないと思ったのだ。「あの、久我さん。……そろそろ、私の話を聞いてもらってもいいですか?」「その前に、僕の話を聞いてもらってもいいかな」久我さんは、視線だけではなく体ごと私の方に向けた。「……改めて言うよ。七瀬さん、僕と付き合って下さい」波の音が、切なく響く。この夕焼け空が、切なさを助長させているような気がした。「こんなに自分と価値観が似ていると感じた女性は、あなたが初めてなんです。僕なら、あなたを幸せに出来る」価値観が似ていると感じたのは、久我さんだけではない。
私も、同じことを思った。特に、結婚願望がないと聞いたときは、この人となら恋愛出来るかもしれないと思ったくらいだ。「僕を選んでくれたら、絶対に後悔させません。あなたを悲しませるようなことはしないし、寂しい思いもさせない。だから僕と……」「ごめんなさい……!」どんなに条件が良くても、価値観が同じでも、譲れない想いがある。自分の気持ちに気付いてしまったあの日から、もう戻れないと悟っていた。たとえ、望む結末とは違う結末を迎えることになったとしても。「私……やっぱり甲斐が好きなんです。甲斐のことしか、考えられないんです」もっと早く素直になれていれば、もっと早く自分の気持ちに気付くことが出来ていれば、目の前にいるこの人を傷付けずに済んだのだろうか。「自分の気持ちに素直になるって決めたんです。だから……久我さんとはお付き合い出来ません」私はもう一度、ごめんなさいと小さな声で呟いた。今まで何度か会ってきた中で、思わせぶりな態度をしてしまったこともあったかもしれない。今さら付き合えないだなんて勝手だと、罵られても仕方ないと思っている。でも実際、久我さんにときめいた瞬間があったことは事実だ。ただ、そのときめきが恋に変わることはなかったのだ。「……前に食事したときは、彼のことを気になっている程度だと思ったんだけどな」
「私も……正直、自分の気持ちには驚いているんです。甲斐のことを好きになるはずがないって、最初は思ってましたから」「でも、好きになってしまったんですね」「……はい」あまりに胸が苦しくて、自分の気持ちを見失いそうになったこともあったけれど、甲斐を好きになって良かったと今なら心から思える。「僕といた方が、幸せになれるのに。結婚とか出産とか、将来のことを考えずに一緒にいられる関係の方が僕たちには合っていると思いますよ」「確かに、そうかもしれませんね。でも……将来のことで悩むのも、悪くないかなって」きっと自分の気持ちに正直に生きていれば、どんなに辛いことがあっても大きな後悔をすることはないように思える。不器用な私なりに、考え抜いた結論だ。