「今日から連休か。七瀬は何か予定あんの？」

 

 

「今日は部屋の大掃除をやって録りためたドラマを見て、明日は蘭と朝からスーパー銭湯に行って岩盤浴入るの。明後日は実家に帰って、家族でどこかドライブに行こうかなと思って」

子宮內膜異位症 五月の連休はきっとどこに行っても混んでいるだろうけれど、家でダラダラ過ごす気にはなれなかった。

 

 

もともとインドア派の私は、家でマンガを読んだりゲームをしながらのんびり過ごす休日が好きだ。

でも、遥希と別れてからは、家に一人でいると考えなくてもいいようなことまで考えてしまう。

 

 

だから、無理やり予定を入れるようにしたのだ。

 

 

「へぇ、家族でドライブとかいいじゃん」

 

 

「たまには、親を労おうかなって。甲斐は？どこか行くの？」

 

 

「俺も一応実家には帰る予定。中学の同窓会やるらしいから」

 

 

甲斐の実家は、北海道千歳市にある。

札幌からは、車で約一時間ほどの距離で行ける街だ。

 

 

「同窓会とかいいなぁ。中学の友達と今もずっと繋がってるんだね」

 

 

「まぁ、何となく」

 

 

そのまま甲斐との会話は進んでいき、楽しい朝食の時間を過ごすことが出来た。

その後は甲斐も一緒に、もずくの散歩に付き合ってくれた。散歩の間も、私たちは他愛もない話を続けた。

仕事の話や、休日の過ごし方の話。

私がもずくの可愛さを熱弁し、甲斐は聞き役に回る。

 

 

甲斐と、久し振りに沢山話した。

どの話題でも、話が尽きることはなかった。

 

 

でも、昨夜の情事のことだけは、互いに話題にはしなかった。

 

 

甲斐は結局、今日は暇だからと言って私の部屋の掃除を手伝ってくれた。

 

 

「甲斐、窓拭きやってくれるの？」

 

 

「いいよ。俺、こういうの結構得意」

 

 

私より何倍も几帳面な甲斐は、部屋の窓拭きや床掃除、更には風呂掃除まで担当してくれた。

 

 

「本当にありがとね。お礼にお昼は、甲斐の食べたいものを出前で取ろ」

 

 

「マジで？いいの？じゃあラーメンにしよっかな」

 

 

ネットで検索しながら、出前で取るメニューを何にするか真剣に悩む甲斐を見て、私は心底ほっとしていた。

 

 

良かった、ちゃんといつも通り話せている。

昨夜のことがあったから絶対に気まずくなると思っていたけれど、意外と普通だ。

 

 

もしかしたらこのまま少しずつ、元の親友同士の関係に戻れるかもしれない。

そんな期待が、私の胸の中では芽生えていた。お昼に出前で取ったラーメンを食べ終えた後は、掃除の続きに集中した。

甲斐が帰り支度を始めたのは、午後四時を過ぎた頃だった。

 

 

「甲斐のおかげで予定よりだいぶ早く終わったよ。本当は今日の夜まで終わらないと思ってたから」

 

 

「意外と汚れてる所多かったもんな」

 

 

部屋の汚れなんて、あまり人には見られたくないけれど、甲斐は特別だ。

甲斐には何を見られても、嫌だとか恥ずかしいとは思わない。

それだけ私は、甲斐のことを深く信頼しているのだろう。

 

 

「地下鉄まで送ろっか？」

 

 

「いいって。男が女に送ってもらうなんておかしいだろ」

 

 

「別にそんなこと……」

 

 

気にしなくてもいいのに。

笑いながらそう言おうとしたけれど、浮かべた笑みはすぐに消えた。

 

 

甲斐が、笑っていなかったから。

 

 

「お前は女だよ」

 

 

「……」

 

 

「で、俺は男。そこ、ちゃんとわかって」

 

 

当たり前のことを言われているはずなのに、なぜか私は何も言葉を返せなかった。

 

 

「七瀬。昨日の夜のこと、忘れるなよ」

 

 

「え……」

 

 

「俺は、なかったことにする気はないから」

 

 

甲斐は、意味深な言葉を残し私の家を出て行った。

 

 

残された私は、数分の間その場から動けなかった。

 

 

そして、なぜか胸の鼓動が速くなっていることに、しばらく時間が経ってからようやく気が付いたのだった。

 

 

 

 

 

翌日、私は朝から蘭と二人で定山渓温泉を訪れていた。

定山渓温泉は、道内では有名な温泉地だ。

流れる源泉の質は良く、札幌市内だということもあり近場のドライブには最適だ。

 

 

本当は札幌市内のスーパー銭湯に行くつもりだったけれど、朝から受付に行列が出来ていたため、予定を変更したのだ。

 

 

「夜勤明けに温泉とか最高だわ。疲れが一気に取れる気がする」

 

 

「定山渓まで来て良かったよね。意外と混んでないし」

 

 

露天風呂に浸かりながら、外の風景を楽しむ。

このホテルには、温泉の他にも岩盤浴やエステ、ランチビュッフェなど楽しめる要素が沢山ある。

スーパー銭湯よりは少し値段も張るけれど、たまにはこんな贅沢もいいだろう。

 

 

「今日はフルコースだね。私、後でビール飲んでもいい？」

 

 

「いいよ。私の分もたっぷり飲んで」

 

 

ちなみに今日は私の車でここまで来ているため、私はお酒は飲めない。

 

 

「ビュッフェ食べ過ぎないようにしなきゃなぁ。最近ストレスで甘いものばっかり食べてるから、太ってきたんだよね」

 

 

「蘭は元々が細いんだから、少し肉つけた方がいいって」

 

 

「ヤダ、絶対太りたくない！依織はいつ見ても抜群のスタイルだよね」

 

 

すると、私の体を凝視していた蘭が、急に私の鎖骨辺りに触れてきた。